倒産に関して1冊全てが社長の告白になっているものを読み研究することにした。
例えば、安田佳生『私、社長ではなくなりました。』(東京、プレジデント社、2012年)、板倉雄一郎『社長失格』(東京、日経BP社、1998年)、三浦紀夫『倒産社長の告白』(東京、草思社、2003年)そして、塩﨑凱也『「疫病神」「貧乏神」「死神」が教えてくれた幸せの法則』(東京、PHP研究所、2010年)などを読んでいった。
こうした体験談のような書物は倒産に至る経緯が詳しく、社長の心理状態を研究するには適している。
一方、倒産原因を体系化して書いているわけではないため、単なる「手記」で終わってしまい、読者が倒産原因を掴めにくい点がある。
また、一冊の著書に十数名の社長の倒産経験が記された書物もある。代表的なのは「八起会」会長野口誠一氏の著書であろう。「八起会」は倒産した経営トップの集まりである。
『倒産社長!どんな仕打ちを受け、どう立ち向かったか-破綻社長10人の涙の告白』(東京、中経出版、1998年)や『社長の失敗!私はここが甘かった<その2>油断編』(東京、中経出版、1998年)などがあり、私が読んだものだけでも4冊ある。
野口氏の著書は、中小企業の事例が豊富なところがよい。倒産原因を体系化しているものではないが、「倒産の原因ベスト10」や、「倒産しないための15カ条」など、倒産原因を箇条書きにし、その対策もまとめているところは価値がある。
倒産原因と対策に関して体系化したものは見つからなかったが、経営全般の失敗について体系化した著書は二つあった。
一冊は海外のもので、シドニー・フィンケルシュタイン 酒井泰介訳『名経営トップが、なぜ失敗するのか?』(東京、日経BP社、2004年)である。フィンケルシュタイン氏はダートマス大学の教授であり、彼と調査チームが6年間にわたって企業の大失敗事例を調査・研究し、まとめたものが前掲書である。調査対象は大失敗した51社の有名企業で大半は米国の大企業だが、ソニーや雪印など日本の大企業も一部入っている。倒産に至らなくとも、中小企業では考えられない規模の負債をかかえて事業撤退になった企業の例も記載されている。事業を閉じるという点では倒産に似通っているので、とても参考になる。
フィンケルシュタイン教授の指摘で興味深いことは、「名経営トップなのに失敗する」のではなく、「名経営トップだからこそ失敗することがある」という主張である。要約すると「経営トップが無能だから失敗するのではなく、無知だから失敗するのでもない。経営トップは非凡な知性と才能の持ち主であるし、大変な人間的魅力の持ち主でもある。そのとびぬけた優秀さが“優秀さの幻想”を呼び、市場や環境を支配していると錯覚し、周囲を道具に過ぎないように見てしまう。」というものだ。また、「失敗するトップの“七つの習慣”」を体系化させているのは評価される。
ただし、研究対象が米国や日本の世界的名門企業(超大企業)なので、中小企業やその他多くの企業には当てはまらない部分もあるのが残念である。また、失敗する経営トップをどのようにして変革して解決に導くかの方法論に乏しい。フィンケルシュタイン教授は、経営者という人間についての研究をまとめたのであるが、経営トップの精神面をどのようにして改善するのか、その探求が浅いところで終わっているのが惜しまれる。
他の一冊は、畑村洋太郎『社長のための失敗学』(東京、日本実業出版社、2002年)である。畑村教授も経営の失敗原因を分類し体系化を試みている。しかしながら、失敗原因が10種あり複雑な感は否めない。中小企業の経営トップの参考にはあまりならないと推測する。なぜなら複雑な内容は自社に応用しにくいからである。
そして、企業経営は人間が行うものであるにもかかわらず、畑村教授の理論では、フィンケルシュタイン教授よりも更に人の考え方や精神面の踏み込みが浅い。これでは人間が営む経営環境において解決力のある有効な手立てはできないだろう。
上記の通り、経営失敗に関する研究はなされてきてはいるが、経営トップにとって理解しやすく実効性がある研究はないと推測される。中小企業にとっては参考になる文献はないだろう。本論では中小企業にとって参考になるように進めて行きたい。
<続く>
※ この論考の著作権は、古賀光昭にあります。無断転載、使用を禁じます。
例えば、安田佳生『私、社長ではなくなりました。』(東京、プレジデント社、2012年)、板倉雄一郎『社長失格』(東京、日経BP社、1998年)、三浦紀夫『倒産社長の告白』(東京、草思社、2003年)そして、塩﨑凱也『「疫病神」「貧乏神」「死神」が教えてくれた幸せの法則』(東京、PHP研究所、2010年)などを読んでいった。
こうした体験談のような書物は倒産に至る経緯が詳しく、社長の心理状態を研究するには適している。
一方、倒産原因を体系化して書いているわけではないため、単なる「手記」で終わってしまい、読者が倒産原因を掴めにくい点がある。
また、一冊の著書に十数名の社長の倒産経験が記された書物もある。代表的なのは「八起会」会長野口誠一氏の著書であろう。「八起会」は倒産した経営トップの集まりである。
『倒産社長!どんな仕打ちを受け、どう立ち向かったか-破綻社長10人の涙の告白』(東京、中経出版、1998年)や『社長の失敗!私はここが甘かった<その2>油断編』(東京、中経出版、1998年)などがあり、私が読んだものだけでも4冊ある。
野口氏の著書は、中小企業の事例が豊富なところがよい。倒産原因を体系化しているものではないが、「倒産の原因ベスト10」や、「倒産しないための15カ条」など、倒産原因を箇条書きにし、その対策もまとめているところは価値がある。
倒産原因と対策に関して体系化したものは見つからなかったが、経営全般の失敗について体系化した著書は二つあった。
一冊は海外のもので、シドニー・フィンケルシュタイン 酒井泰介訳『名経営トップが、なぜ失敗するのか?』(東京、日経BP社、2004年)である。フィンケルシュタイン氏はダートマス大学の教授であり、彼と調査チームが6年間にわたって企業の大失敗事例を調査・研究し、まとめたものが前掲書である。調査対象は大失敗した51社の有名企業で大半は米国の大企業だが、ソニーや雪印など日本の大企業も一部入っている。倒産に至らなくとも、中小企業では考えられない規模の負債をかかえて事業撤退になった企業の例も記載されている。事業を閉じるという点では倒産に似通っているので、とても参考になる。
フィンケルシュタイン教授の指摘で興味深いことは、「名経営トップなのに失敗する」のではなく、「名経営トップだからこそ失敗することがある」という主張である。要約すると「経営トップが無能だから失敗するのではなく、無知だから失敗するのでもない。経営トップは非凡な知性と才能の持ち主であるし、大変な人間的魅力の持ち主でもある。そのとびぬけた優秀さが“優秀さの幻想”を呼び、市場や環境を支配していると錯覚し、周囲を道具に過ぎないように見てしまう。」というものだ。また、「失敗するトップの“七つの習慣”」を体系化させているのは評価される。
ただし、研究対象が米国や日本の世界的名門企業(超大企業)なので、中小企業やその他多くの企業には当てはまらない部分もあるのが残念である。また、失敗する経営トップをどのようにして変革して解決に導くかの方法論に乏しい。フィンケルシュタイン教授は、経営者という人間についての研究をまとめたのであるが、経営トップの精神面をどのようにして改善するのか、その探求が浅いところで終わっているのが惜しまれる。
他の一冊は、畑村洋太郎『社長のための失敗学』(東京、日本実業出版社、2002年)である。畑村教授も経営の失敗原因を分類し体系化を試みている。しかしながら、失敗原因が10種あり複雑な感は否めない。中小企業の経営トップの参考にはあまりならないと推測する。なぜなら複雑な内容は自社に応用しにくいからである。
そして、企業経営は人間が行うものであるにもかかわらず、畑村教授の理論では、フィンケルシュタイン教授よりも更に人の考え方や精神面の踏み込みが浅い。これでは人間が営む経営環境において解決力のある有効な手立てはできないだろう。
上記の通り、経営失敗に関する研究はなされてきてはいるが、経営トップにとって理解しやすく実効性がある研究はないと推測される。中小企業にとっては参考になる文献はないだろう。本論では中小企業にとって参考になるように進めて行きたい。
<続く>
※ この論考の著作権は、古賀光昭にあります。無断転載、使用を禁じます。